本作品は人の身体に起きる変化と、それに対する抗い、あるいは受け入れをテーマとしています。VR空間上には肉体のメタファである球体と、コントローラーで動かせるピンセット、そしてゴミ箱だけを存在させました。時間の経過とともに無垢な球体は、毛が大量に生えた状態へと移行していきます。鑑賞者は毛が生え続ける球体を前にして、楽しみながら、あるいは嫌悪しながらピンセットで毛を取り除くことができます。もちろん、逃げ出してもかまいません。
作者は、初めて身体に毛が生えてきた時の「不快感」と、それを取り除くときの「奇妙な快感」を鮮明に覚えています。本作品は、無駄を削ぎ落とした空間、無垢を感じさせるパール質感の球体、異常な毛のスケールやリアルな質感など、その時に主観的に感じていたものを内容に反映させて設計していきました。この偏執的な作品に触れた方々が、自身の身体性や、変化の瞬間の心の動きを思い出すきっかけになればと思います。
これまでCGによる既存の毛髪の表現はマクロ視点を前提としており、本作で扱ったようなミクロ視点の立体物として一本の毛を扱った例や、生え変わりの表現、またそれぞれの毛と高度にインタラクションさせた例は作者の知る限り他にありません。本作品のシステムは、このような独自のインタラクション空間を実現させるために、openFrameworksやopenCV, openVR, glslなどを用いてかなりハンドメイドに作る必要がありました。
制作:工藤達郎
協力:池田雄一郎(白色球 制作)
-Music-
Deep Fragments by Aleksandar Dimitrijevic
Hardware: Windows PC(OS 10), Azure Kinect DK, HTC Vive Pro, 白色球(鉄塊、パイプ、スチロール等から制作)
Software/Library: Openframeworks 0.11.0(Addon:ofxGui), OpenVR, Visual Studio 2017, glsl, opengl, opencv, Bullet Physics